【参考裁判例1】

事件番号

 

平成21年(ワ)第22440号
平成21年(ワ)第22443号
平成21年(ワ)第23302号
平成21年(ワ)第23303号

裁判所

 

東京地方裁判所

判決日

 

平成22年6月25日 (2010-06-25)

判示事項

 

仕事がないから2名のうち1名には辞めてほしい旨の退職の協力要請が被告Y社工場の責任者からあったのに対し,原告Xら2名ともが退職を申し出ていたところ,これは自主退職であるとして減額した退職金しか支払われていなかったことにつき,退職金規程にいう「やむを得ない業務上の都合」に当たるものとして,会社都合の場合の退職金支給基準率が適用されるべきであるとされた例

基礎的事実の認定

 

被告は,昭和44年設立の,主としてプラスチック金型の設計・製作をはじめプラスチック成型品の製造を目的とする株式会社であり,山形県酒田市にある酒田工場において医療機械・産業機械・工作機・電話交換機に使用する電子部品を製造し,東京都大田区にある蒲田工場においては,そのために必要な「金型」を製作していた。この「金型」製作は,被告にとって重要な製作部門であり,同工場に勤務する原告らの給与(手取額)は,いずれも他の従業員のそれよりも高額であった(以上につき〈証拠略〉)。

 

被告は,平成12年ころから経営状況が悪化し,資金繰りも急激に苦しくなった。金型が値崩れを起こした蒲田工場も例外ではなく人員を削減しなければならない状況が生じたが,ただ金型の製作部門は被告の存続・維持にとって重要な部門であったことから一応同工場を廃止することはせず,原告ら2名のうち1名だけの削減にとどめる方針で臨むことにした(〈人証略〉,被告代表者・8頁,〈証拠略〉)。
蒲田工場の責任者であるAは,平成20年11月28日の夕方,蒲田工場の事務室において,原告らに対し,(蒲田工場について)「仕事が薄くなってきている。仕事がない」などと切り出した上,「このままでは蒲田工場はやっていけないので,(原告らのうち)どちらか1人は辞めて欲しい」と申し出た(以下「本件退職の協力要請」という。)。 原告らは,残業までしていたことから,仕事がないとのAの説明に納得が行かず,本件退職の協力要請に対し難色を示した。しかしAは,「仕事がないから辞めてくれ」の一点張りで,その態度を変えようとはしなかった。
そこで原告甲野は仕方なく,Aに対し,それならば自分が被告を辞める旨申し出たところ,原告乙山もこれに相呼応して,自分も原告甲野と一緒に辞めると言い出した(以下「本件退職の申出」という。)。
被告としては蒲田工場を閉鎖することまでは予定していなかったため,Aは,原告らに対し,「2人いっぺんに辞められては困る。」などと一応難色を示したものの,それ以上に強く原告らを引き留めようとはせず,直ぐさま原告らの本件退職の申出を受け容れた。 原告甲野は,同月末日,同乙山は翌12月初め,被告を退職することとなった。 以上の話し合いは1時間余りで終了したが,その間,どちらからも原告らの退職金の有無等についての話題は出なかった(以上につき原告甲野・3頁以下及び23頁,原告乙山・5頁,〈人証略〉,〈証拠略〉)。

 

原告甲野は,蒲田工場には仕事があると認識していた。そのため平成20年11月末日をもって退職に至ったことに納得が行かず,同月29日,大田区の労基署を訪れた。すると労基署は,原告らの本件退職は労基法20条に違反する不当解雇の疑いがあるとして,原告甲野に対し,退職(解雇)の理由を明らかにしてもらうよう促した。そこで原告甲野は,被告に対し,退職理由を明らかにするよう求めたところ,被告は,同月29日付けで解雇の予告を行ったとして,原告らに対し,その解雇理由を事業縮小等被告会社の都合によるものとする「解雇理由証明書」(〈証拠略〉)を作成,交付した。しかし解雇予告手当は支払われなかったことから,原告らは,同年12月27日まで勤務し,1か月後の同月29日をもって被告を退職した(原告甲野・7頁,〈証拠略〉)。
そうしたところ被告は,原告甲野に対し,同原告の被告に対する退職金と被告の同原告に対する貸付金との明細を示し,これらを差引き相殺して解決することを申し出たが,原告甲野は,この申出に係る退職金額が自主退職を前提に計算されていたことから納得が行かず,その申出を断った(原告甲野・18頁)。

 

翌平成21年1月早々,原告らは,弁護士に相談し,退職金を受け取る権利があることを確認の上,全日本金属情報器機労働組合の東京地本大田地域支部(以下「大田地域支部」という。)に加入した。そして,同支部を介して,被告に対し,退職金の支払等に関する話し合いを求めたが,被告は,これを拒絶した。
同月16日,大田地域支部は,原告らに代わって,被告に対し,原告らが大田地域支部に加入したことを報せ,かつ退職金等につき話し合いによる解決を求める旨の文書を送付した。しかし,被告は,その話し合いを拒否したことから,大田地域支部は,平成20年12月29日をもって会社都合により解雇されたことを前提に,原告甲野につき635万円余りの,また同乙山につき69万円余りの各退職金を請求する旨の内容証明郵便を送付した。しかし被告は,本件退職金規程は既に廃止されているなどとして,この原告らの請求を拒絶した(以上につき〈証拠略〉)。

判断

 

原告らの本件退職金請求は,本件退職金規程2条3号を根拠としているが,本件退職の申出それ自体は,飽くまで任意退職の意思表示という形式でもってされており,本件退職金規程2条3号にいう「解雇」には当たらないようにもみえる。

しかし,そもそも本件退職金規程2条3号の趣旨は,従業員の退職理由が専ら会社経営上の必要性(すなわち経営の簡素化,事業の縮小,不況による経営の悪化等による人員削減の必要性)に基因する場合には,これに理解,協力を示した従業員に対し退職金支給基準率の倍増という一種のインセンティブを付与し,その目的の達成(余剰人員の解消等)を容易なものにしようとする点にあるものと解される。  そうだとすると同条3号にいう「やむを得ない業務上の都合による解雇」とは,一般に上記のような会社経営上の必要性に基づく解雇のことをいうにしても,これに限定されるものではなく,会社経営上の必要性(余剰人員の解消等)から従業員が任意退職を余儀なくされたような場合についても,上記「解雇」に準じ同条3号が適用されるものと解するのが相当である。

 

そこで以上の解釈を前提に上記争点(1)について検討する。
上記事実によると,(ア) 被告の前代表取締役によって行われた本件退職の協力要請は一応蒲田工場を存続させることを前提としているものの,基本的には同工場の人員削減に基づく経営合理化の一環として行われたものであること,(イ) 原告らは,本件退職の協力要請に対して強い難色を示したものの,その協力要請を行ったAが全く態度を変えようとはしなかったことから,仕方なく原告甲野において自らが被告を辞める旨申し出たところ,これに原告乙山が呼応し,本件退職の申出に至ったものであること,(ウ) Aは,この原告らによる本件退職の申出に難色を示したものの,これを強く拒絶しようとはせず,直ぐさま本件退職の申出を受け容れていること,(エ) 原告甲野は,本件退職の申出により被告を退職することになったものの,蒲田工場には仕事があるものと認識していたことから納得が行かず,翌日,相談に労基署を訪れ退職の経緯等について説明したところ,労基署から不当解雇の疑いがあるとのアドバイスを受けたこと,(オ) そして,原告甲野において,労基署のアドバイスにより被告に対し解雇理由を明らかにするよう依頼したところ,被告は,原告らに対し,解雇理由を事業縮小等被告会社の都合によるものとする「解雇理由証明書」を作成,交付するとともに,更に解雇予告期間に相当する1か月間原告らを蒲田工場において勤務させていること,(カ) 原告甲野は,退職後,被告から退職金と被告に対する借入金を差引相殺し解決しようとの申出を受けたが,被告から提示された退職金の額が自己都合による退職を前提に算定されていたことに納得が行かず,直ちに被告からの上記申出を断っていること,(キ) そして,その後直ちに原告らは,退職金の有無等につき弁護士に相談した上,地域の労働組合(大田地域支部)に加入し,同労働組合を通じて,被告に対し,本件各退職が会社都合によるものであることを前提に算出された金額の退職金を支払うよう請求していることなどの事情が認められる。

これらの事情は,いずれも本件各退職が会社経営上の都合(会社都合)によるものであったことをうかがわせる事情(逆からいうと自己都合退職であることと矛盾し,あるいは整合しない事情に当たる。)であって,これらの事情を併せ考慮すると,原告らによる本件退職の申出は,専ら被告の上記会社経営上の必要性に基づき行うことを余儀なくされた任意退職の申出であると認めるのが相当であって,そうだとすると,これを契機に成立した本件各退職の合意は,本件退職金規程2条3号にいう「解雇」に準じて扱うことができ,同号の適用があるものと解される。
よって,原告らの本件退職金の額は,別表A欄所定の支給基準率に基づき算定されることになり,この点に関する原告らの主張は理由がある。

 

もっとも以上の結論に対し,被告は,本件退職の協力要請は蒲田工場の存続・維持を前提として行われたものであるとした上,原告ら両名が2人揃って退職することになる本件退職の申出は,会社の維持・存続にとって不可欠な部門である蒲田工場の存続を危うくしかねない申出であって,本件退職の協力要請とその前提にある被告の上記方針に反するものであることを理由に,本件退職の申出は飽くまで原告らの主観的な事情に基づくものであり,これにより成立した本件各退職の合意には本件退職金規程2条は適用されない旨主張する。 しかし原告らは,被告において他の従業員よりかなり高額な賃金を得て勤務しており,しかも二人とも多数の扶養家族を抱えていたというのであるから(〈証拠略〉),本件退職の申出をした時点において自主退職の動機付けとなるような主観的な事情は存在していたものとは考え難い。
むしろ上記イで指摘した(ア)ないし(キ)の各事情,とりわけ本件退職の協力要請は一応蒲田工場を存続させることを前提にしているとはいえ,基本的には同工場の人員削減に基づく経営合理化の一環として行われたものであること,本件退職の協力要請を行った被告前代表取締役のAは,本件退職の申出に対して一旦は難色を示しはしたものの,原告らを強く引き留めようとはせず,直ぐさま本件退職の申出を受け容れており,その後も本件退職の申出の撤回を求めた形跡は全くうかがわれないことなどの事情に加え,A及び被告代表者によると蒲田工場の金型受注量は減少しつつあったとのことであり,そうであれば外注によって原告らが抜けた穴を埋めることも考えられてしかるベきであって,現にそれまでも被告は,蒲田工場の繁忙時等において金型の製作を外注によって対処してきた経緯があること(原告甲野・18頁以下。なお〈人証略〉によるとAは外注につき時間がかかるとはしているものの外注という方法があることは否定していない。また原告乙山・2頁によるとAは,原告乙山を雇い入れるに当たって,同原告に対し金型の製作は外注に出すことを仄めかしていた経緯がうかがわれる。)などを事情として併せ考慮すると,

本件退職の申出は,少なくとも客観的には本件退職の協力要請時における被告の経営方針(被告の経営悪化に伴う蒲田工場の人員削減という喫緊の課題)からみて到底受け容れ難いような内容のものであったとまではいい難く,Aは,本件退職の申出を強く拒絶することにより,2人揃って蒲田工場に残留するという最悪の方向へ原告らの気持ちが傾くことをおそれ,本件退職の申出を受け容れたものと考える方が自然である。
よって,被告の上記主張を採用することはできない。

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